いよいよ来週、公式日本語ルールが完成する『OCSスモレンスク』の裏側に迫ります。日本語ルール巻末に付いているデザイナーとディベロッパーの声をお聞きください。
デザイナーノート
近年、1941年のスモレンスクの戦いに大きな注目が集まり、分析が進みました。グランツ、ルーサー、ストーエルらが揃って、スモレンスク戦がバルバロッサ作戦、ひいては独ソ戦全体に与えた影響を洞察し、多くの情報が挙げられていったのです。
「どちらが勝ったのか」は、あなたが勝利とはどのようなものであると考えるかによるでしょう。史実で両軍は、完璧に近い知性を持ったウォーゲーマーならば決して犯さなかったような、様々なミスを犯していました。私は『ブリッツクリーク・レジェンド』(TBL)と同様、プレイヤーが史実と同じような決断やミスをせざるを得ないように縛ることはしたくないし、しない、と決めていました。史実通りの結果にはなりっこない(TBLと同じく)と言う人もいるだろうことも承知の上です。しかし、私がゲームデザインにおいて興味を持っているのは、その時両軍がどのような状況で、どのような問題に直面していたのかをシミュレーションゲームでいかに表現するかということでした。次に挑戦するべきは、両軍プレイヤーが高いレベルの決定に直面して、自分なりに決断していけるようにすることでした。このことは特に枢軸軍側においてあてはまり、ソ連軍側はほとんどの場合、状況に対して反応するのが精一杯であることでしょう。
確かに、スターリンやスタフカによって幾度も反撃命令が下されました。しかし私は、「強制攻撃」ルールが必要だとは思いませんでした。なぜなら、このゲームにおいてチャンスを掴もうとするならば、ドイツ軍の攻勢能力をすり減らすためにソ連軍は何度も攻撃をしかけなければならないでしょうから。ソ連軍はただ「首をひっこめている」だけでは、ドイツ軍に飢えさせられ、敗北してしまいます。損害が大きくなろうとも、ソ連軍はドイツ軍に攻撃していくことが必要なのです。そうすれば、防御のために費やされた敵のトークン毎に、装甲大隊の行動のための燃料が減少していくのですから。
2つの装甲集団がお互いの作戦地域に入れないというルールを私は気に入っています。このルールはグデーリアンとホートの間の協調の欠如と共に、目標が分裂していたことも再現しています。しかも、上級司令部による統制が効いていなかったことと、追求すべき戦略目標が定まらなかったことをも表しているのです。
このゲームを皆さんが楽しんでくれることを祈っています!
デベロッパーノート
ハンス・キーシェルデザインの『ブリッツクリーク・レジェンド』は、1940年5月にどのようにしてドイツ軍の装甲部隊がフランスをあれほど決定的に敗北させたかという複雑な疑問に挑戦していました。彼の最新作である『スモレンスク』もまた、どのようにしてソ連軍は1941年7月にあれほどの装甲部隊をからくも停止させることに成功したのか? という難問に挑んでいます。
OCSシステムの中でプレイヤーは時に、挑戦的にならなければなりません。たとえば、『スモレンスク』においてはソ連軍はARが不利であるにもかかわらず攻撃しなければならず、結果として頻繁に大損害を喰らうことになります。しかし、度重なる攻撃は防御側に貴重なSPやステップを失わせることになり、AL2の戦闘結果であってもそれに見合う価値を有するのです。
両軍の大きな非対称性は興味深いものです。AR差の他に、兵站や補充においても大きな違いがあります。ドイツ軍の持つSPは少なく、ゆえに防御のための2Tは大きな負担となります。一方ソ連軍側にとって、砲兵砲爆撃を含め攻撃にかける兵站への負担は、ドイツ軍に比べれば僅かなものです。ソ連軍は補充も比較的豊富であり、ゆえにAL2の戦闘結果という痛みもカバーできます。
シリーズのまとめ役として私が心配なのは、様々なゲームルールがOCSのシステムを踏み外してしまっていたりはしないかということです。たとえば『スモレンスク』のデザインにあたっては、『ケース・ブルー』にやや近い形への調整が必要でしたが、しかし他のゲームの特別ルールから自由に借りてきたルールや、新たなルールも入ってきています。以下では、それらの事項について語ってみましょう。
側面。7月中旬までに、ヒトラーはすでに枢軸軍をモスクワへではなく、側面に向けて転進させることを決断していました。この決断はゲームが扱う焦点を遙かに越えるものであるので、ゲームの中に組み込んであります。いくつかの枢軸軍部隊はエントリーKを通って退出し、すぐにヴェルキエ・ルーキでソ連第22軍と戦うことになります。残りは南へと退出してゴメルを占領し、次にキエフの背後へと向かうのです。
好むと好まざるとにかかわらず、この決断はこの作戦全体を失わせることになりました。我々はドイツ軍をエントリーEとKから退出させるようにしようと少し努力してみましたが、しかしうまくマップ外に出てもらえるようにプレイヤーに頼むというのは、人為的すぎるでしょう。同時に我々は特に、プレイヤーが8月19日ターンに退出する可能性がある装甲部隊をゲーム的に扱うことを認識していました。「退出」ルールと3.3dが最悪の乱用の可能性を消滅させることでしょう!
建設マーカー。『ブリッツクリーク・レジェンド』では、枢軸軍はセダン周辺に素早く警戒空域を作り出す特別な滑走路を使用することができました。このゲームでも同様に、ドニエプル川を渡る時にそれをカバーする応急の滑走路を作って戦闘機を置くことができるようになります。ひっくり返せば、枢軸軍は橋梁も建設できます。工兵のユニットを追加すれば同じことができたでしょうが、このやり方の方が簡単ですし、それにマーカーの数によって制限を設けることもできます。
補給と補充。7月中旬にはスモレンスクの戦いよりもヴェルキエ・ルーキの危機的状況に目が注がれるようになっているため、追加のSPが(トラックに積まれて)到着するのはこの頃が最後になります。8月にはキエフ戦が注目の的となって、この戦いが両翼へとSPと補充を吸い取っていきます。そのため、増援は時間が経つにつれて先細りになっていき、主導権は徐々にソ連軍に移っていくのです。
ドイツ空軍。ゲーム開始時には、中央軍集団はこの戦域において多すぎるほどの攻撃機の配分を受けていました。すぐにJu.87やBf.110は北方軍集団や南方軍集団の攻勢支援のために引き抜かれていくのですが、しかしマップ1枚に対しては恐ろしいほどの配分が続くことになります。
装甲大隊。色々な戦力値の装甲大隊が存在しているのは、(3ではなく)4個中隊編成のものがあったり、小口径砲を装備した戦車がほとんどであった部隊がいたからです。バルバロッサ作戦以前の戦闘経験がない師団が3個あり、それらの装甲大隊のARは4になっています。
偵察&オートバイ大隊。「特別補充」のダイス振りは、タイフーン作戦に向けた補充を表しています(貴重な装備補充は装甲部隊へと回されていたのです)。このダイス振りによって、新たに導入された補給キャッシュマーカーやソ連軍警戒ユニット(後述)も獲得できます。
可変退出。大きな引き抜きが主として8月19日ターンに行われますが、SSライヒ師団のそれは1、2週ほど遅れるかもしれません。我々はそのタイミングがいつになるか分からないようにし、かつ退出を命じられるのがSSライヒ師団になるか、第14自動車化歩兵師団になるか分からないようにしました。
マップ端ボックス。ソ連軍はマップ端ボックスを使用して、迅速に再配置を行うことができます。たとえば7月、ソ連軍が戦略移動モードを使用できるようになる前には、ルジェフ(Rzhev)から西へ向かう行軍は遅々たるものですが、北東ボックスを通って非常に早く移動できるのです。
またマップ端ボックスは第21軍と第22軍にとっては脱出路にもなりますし、反撃のために集結する部隊を置いておくこともできるのです(特に南方からの)。
ソ連軍の警戒ユニット。24個の独立対戦車連隊がこの戦いに参加していました(多くは狙撃兵師団【訳注:歩兵師団のソ連軍での呼称】から分離されたものでした)。民兵の中の数十の「戦闘大隊」が、モギレフ(Mogilev)やスモレンスクなどの都市に編成されました。できる限り歩兵の支援をするために、戦車師団からも若干の大隊が派遣されています。これらすべてが戦いに重要な寄与をしたのですが、牽引式の対戦車砲と小さなロシア軍大隊は普通ならこのシミュレーションレベルよりも小さいと考えられたことでしょう……ですがここはⅡ号軽戦車が豊富であるというのが標準的な環境であるのに、どうやって我々がそれらを除外することができたでしょうか? そのため、我々は『バルティック・ギャップ』における守備隊プールに似た仕組みを『スモレンスク』に導入することにしました。-でも、今回選択された方法からすればThe Gamersは『GBII』に数百の対戦車ユニットを加えるべきだったのではないかなどと考えないようにお願いします!
民兵師団。まったく同じレーティングのユニットを用意する代わりに、我々はそれぞれの師団が後にどのような狙撃兵師団に改編されたかに従ってレーティングすることにしました。そのため、ゲームに到着した時には非常に弱体である場合もあります。
NKVD国境連隊。我々は共通ルールにはこの退却を阻止する部隊を入れないようにしています。彼らは単に防御戦闘において狂信的なだけの部隊ではありません。彼らは非常に特別な部隊(AR4というのは赤軍において貴重です)で再建不能であるため、極力賢明に使用すべきでしょう。
戦車師団。その戦力値をどうするかは困難な問題でした。戦車大隊を8個持っている師団があるかと思えば、6個だったり、4個だったり……それに1個大隊が実際に持っていた戦車の数も、まったく様々でした。我々がそれらの違いを細かく数値化するのに、ローランド・ルブラン氏とジョン・ボーウェン氏が多大な貢献をしてくれました。第26戦車師団と第38戦車師団が1ステップロスした歩兵ユニットとして扱われているいるのは、彼らがこのゲームが始まる前に、すべての車両を失ってしまっていたからです。
自動車化狙撃兵師団。このゲームの開始時、第210と第220の自動車化は名称上でのみの話でした。また第109と第219はわずかな数の自動車を持っているだけ(戦車もありませんでした)だったので、移動力が高めの徒歩部隊としてあります。さらに、第106と第107は公式には「戦車」部隊とされていましたが、実際上は自動車化狙撃兵師団でした。ARのレーティングはほとんどの場合、『GBII』を基にしてあります(たとえば、第107は第106よりもARが高くなっています)。この時期は戦車とトラックの補充は少なく、それゆえほとんどの自動車化狙撃兵師団は再建不能となっています。
第1自動車化狙撃兵師団は特別なケースであり、独ソ戦が始まる前の赤軍におけるエリート部隊でした。この部隊は『GBII』では親衛の色をした3ステップの10-4-5師団となっていますが、『スモレンスク』では複数ユニットフォーメーションとして表現する価値があると判断しました。
改編。ソ連軍の3個の師団が「改編」されます(実際には他にもあったのですが、それらは省略されているのです)。その意味するところは、元の師団の経験豊かな基幹部隊に新たな大隊や連隊がいくつか編入された時に、新たな師団番号が付けられることがあったということです。ソ連軍プレイヤーにとって重要なのは、この改編は元のユニットがすでにデッドパイルに行っていたとしても、「ノーコストで」再建できるということです。歴史的興味を持つ方のために、改編の経緯も記しておきます。
・7月に、第69自動車化狙撃兵師団(12-1-4)は第107自動車化狙撃兵師団に改編されます(同じ数字を持つ狙撃兵師団もあることに注意して下さい)。改編後の部隊はまだ2個狙撃兵連隊を持っていたので、我々は自動車化狙撃兵師団と呼んでいます(資料によっては戦車部隊としているものもあります)。どちらにしても、この部隊は204両もの戦車を持っており、そのレーティングは16-2-5となっています。『GBII』の開始時には消耗し、12-2-5となっています。
・第57戦車師団(16-1-3)は、その中の自動車化狙撃兵連隊がウクライナに派遣されていたため、珍しく兵科マークが「黄色」の師団となっています。8月にこの師団は8-1-5の戦車連隊へと弱体化します。このゲームの中のすべての戦車師団は8月か9月に解体され、多くが独立戦車連隊か旅団になることは知っておくと良いでしょう。
・第103自動車化狙撃兵師団は9月にすべての車両を失った後、1個狙撃兵連隊が追加され、通常の狙撃兵師団(10-0-1)へと改編されました。
ソ連空軍。『GBII』ではソ連空軍の航空任務に対して、多くの厳しい航続距離制限を課していました。『スモレンスク』においてはこの1枚のマップ上ですべての航空ユニットが陸上部隊を支援しており、航続距離を半分にすることでよりシンプルにしてあります。
もう一つの新趣向は、戦争早期のシュトルモヴィクについてです。IL.2が最初に戦闘に投入された時には、特に効果的だとは思われていませんでした。そのためIL.2は弱めに、ステップを持たないユニットとされているのです。
オプションルール。『スモレンスク』は特別ルールが5ページにも満たないゲームです。ですからあなたはすぐにオプションルールを見つけて、プレイヤーの制限を取り除く4.1aに興味を持つことでしょう。最初のものはソ連軍に陣地の建設と、7月中の戦略移動モードの使用を許可します。ささいなことに思えるかもしれませんが、これらは大きな助けになるでしょう。もう1つの変更もかなり大きなもので、なぜならグデーリアンとホートの両名はこの戦役における危険人物だったからです。そう、優秀だがコントロール不能な。プレイヤーがフォン・ボックの立場として装甲師団やSPを自由に采配したらどうなったかというのは、非常に興味深いIfであると言えるでしょう。
このような比較的小さなゲームでありながら、決断を迫られるゲームになっているのは驚くべきではないでしょうか? ハンスは少ない特別ルールの中に、よくこれだけ多くのことを盛り込んだものだと思います!
OCSゲームのデベロップ時に、私の目の前でデザインチーム、リサーチチーム、テストプレイチームが最終的な製品として向上させようと奮闘しているのを見ることができるのが、私は本当に大好きです。このゲームのデザインには数年かかり、デベロップにはさらに2年を費やしました。『スモレンスク』の最終テスト時、テストプレイヤー達に「このゲームは完璧だし、もうやることはないよ」と言ってもらえたらと、ハンスと私が思っていたのは否定できません。しかし彼らが偉大であったのは、我々の「充分だ」という判断は「素晴らしい」であることには及ばないと考えて努力してくれたことで、それによってこのゲームはさらに良いものになったのです。
Perry Andrus、John Bowen、Stephen Campbell、Jeff Coyle、Roland LeBlanc、John Leggatら、このプロジェクトを進めるのに協力してくれた友人達に本当に感謝しています。当然ながら、彼らは全員、私の中で+6シフトを獲得しました!

『OCSスモレンスク』について、もっと詳しく知りたい方はOCSゲームの商品案内のページをご覧ください。『OCSスモレンスク』はオペレーション・コンバット・シリーズ(OCS)のエントリーモデルです。

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